ユウデン

先日の太陽誘電のブランクディスク事業撤退は結構なニュースでした。個人的に驚きでした。何故なら「事業撤退」だから。自社生産や国内生産から撤退ってなメーカーはよくあるんですよ。しかしそうしたメーカーはその後もブランクディスク事業そのものは継続しているんですよ。TDKソニーなんかはそんなところですよね。彼らは基本的に台湾メーカーに生産させる形でやってます。だからこそ過程をゴッソリ吹き飛ばしたかのような今回のニュースには驚きを持つ訳。

今回の誘電の件、「円盤終了」「つーか誰も使ってない」なんかがネットでは反応として挙がっていて、まぁネット世間ってのはBlu-rayが出る前から「そういうスタンス」が性質です。そもそもDVD時代以前、というか光学ブランクディスクの需要が上昇していた時代から、自社生産や国内生産からの撤退ってのは既に起きていたものでした。何でそうなったかというと、それは単純にブランクディスク市場が巨大となり、また新興国にも普及するレベルだったことで、強烈なコスト競争に巻き込まれることになったからです。光学メディアってのはリードオンリーにしても書き込みタイプにしてもプレス枚数を多くすることで圧倒的な低コストを実現することが「持ち味」「存在価値」なので、普及が行き着いた結果、「圧倒的な低コスト」「販売価格の下落」が成立してしまい、多くのメーカーにとって「うま味のない事業」、また人件費の高い日本においてはそれが強調されることになります。このメソッド?は液晶パネルや半導体などの業界にも当てはめることが出来るんじゃないかな。それこそディスクのプレスなんて技術的にはそれらよりコモディティし易い訳で。

ただそれでも、そんだけ普及した=立派な市場な訳ですから、その巨大さの中でどうにかこうにかやっていくことは可能でしょう。光学ブランクディスクの先駆者かつ雄である太陽誘電なら「お釣り」があったでしょうし、そんな中で国産品質を売りにすることも出来ました。先の液晶テレビに例えればシャープまんまっすね。その他メーカーにとっては先の自社生産や国内生産を止めてコストダウンに対応するなどでやってけましたし、特に日本の場合、とりわけ録画用途。だってテレビ番組をレコーダーからデジタル不劣化に外部複製できるなんてアメリカや欧州じゃありえんからね。そんなのが通るほどに日本の録画需要は強く、必然的に録画用ディスクの市場も大きいので、ここで勝負することが可能でした。安いだけの馴染みないメーカーよりも磁気テープ時代からあるようなメーカーの方が日本では売れたのです。さらに録画用途の市場においては一時保存的な扱いであるRWやRAMの需要があり、誘電以外のメーカーにとってはそこがブルーオーシャンで勝負出来たわけです。ちなみにこのポイントは今回のニュースでの最も大きなポイントだと思いますが後述します。またこのDVD時代においては、先にあるBlu-ray(またはHD DVD)の市場を認識出来ていたことで、「引き際はまだ先やろ」的な判断もあったでしょう。

で、今現在における光学ブランクディスクの存在価値はかなり狭いモノとなっています。代替メディアが多様化しています。小容量であればNANDメモリやクラウドでOKな訳ですから。そして大多数のデータ利用はこのサイズで収まってしまいます。なので世界的にもCD/DVDのブランクディスクの需要枚数は結構前からになりますが年々減っています。一般的な利用で保存するデータが大容量化していない為に、CD→DVDで必要枚数が少なく済んでしまうことも需要枚数減少の要因となっています。仮に大容量データの保存であってもHDDがあります。但し、この大容量データが沢山発生する状況があれば初めて光学ブランクディスクの出番がやってきます。しかしそんなユーザーいるでしょうか? まぁいるにはいるんですね、それが日本における録画ユーザーです。HDDの痒いところは、リムーバブルでない点は除くとしても、仮に1TBのHDDが5000円で買えたところで100GBのHDDを500円で買うことは出来ないがBD-Rなら1層25GBの5枚パックを500円で買えるという点に加え、仮に1TB相当であるBD-R40枚分の作品を記録したHDDがクラッシュすると被害甚大という点です。とは言えアメリカなど海外では放送を日本の様に録画することにはかなり制限があり、複製などもっての外です。よってこの需要が日本を中心としたものとなります。さて、もう一つ光学ディスクの出番としては大量配布用途があります。これの需要は音楽や映像の海賊盤から来るものが依然強いのだけど、新興国が中心で当然これ海外需要なんです。そして海外つまり世界シェアで見ると太陽誘電のシェアって実はかなり低いんです。これもまたシャープ的な話です。まぁ国産である分、海外にとっては輸送費など含めて割高になるんでしょうし、単価の安い商品では影響が大きく成らざるを得ないのかもしれません。一方で他社である、TDKはイメーショングループとして世界でトップクラスのシェアを持ち、三菱もバーベイタムブランドでトップシェア、ソニーも海外シェアはそこそこあります。だからこそ彼らはブランクディスク事業を捨てるまでには至らなかったと言える。

となると、太陽誘電にとって中核となっていたブランクディスク市場というのは「日本市場、かつ録画用ディスク」に他ならなくなります。そんな日本での録画用ディスクの市場は今現在、主流がBlu-rayに移っています。そりゃハイビジョン普及などによりレコーダーがDVD→BDへと移行したから必然ではありますが。そして録画用途に関して光学ブランクメディアは決して死んでいません。録画機で外付けHDD対応が浸透するようになっても、動画配信が市民権を得る時代になっても。今でも量販店ではエンド置きです。売り子さんに聞いても反応はいいですし、ネットじゃ「今時誰が焼くんだ」とかワーワー言われるんですが、世間は意外なほど焼いてます。職場のパートおばちゃんの「そういやドラマあれブルーレイに焼かんと」や、同僚の「娘がジャニーズの番組BDで焼いてくれって」とか、若い子が「あの特番BDに録ったし今度見せたる」とか耳にした時には「そう…(関心)」と思わずにはいられませんでした。アニオタ需要より多いんじゃないかってくらいで、そんな印象ではそれこそマイルドヤンキーに支えられている気がしないでもないので、それもあってネットの反応とギャップが出るのかなと思わなくもないです。つまり録画用ディスクはそれなりに売れているので、メーカーはそこで勝負しようと思えばできる訳です。そうしてメーカー各社は日本で勝負しています。パナソニックは国産ディスクを展開していますし、三菱も一部ディスク、確かBD-REが国内生産だったかな? まぁ各社頑張っています。そんな中で誘電は残念なことになっています。家電量販店の録画用BDの販売コーナーを見れば一目瞭然ですが、誘電の存在(スペース)はちっぽけなものになっています。おそらくほとんどの店がパナソニックソニーTDKが棚の中心でマクセルが次点と言う感じの扱いになっているはずです。どうしてこんなことになってしまったのか? DVDだと誘電は棚の中心だったりするんですよ? 一体どうして。それはBlu-rayの仕様にあります。

Blu-rayのブランクディスクは記録膜の素材に無機色素というものを使います。CD/DVD時代でいう所の相変化というやつです。つまりCD-RWだったりDVD-RAMだったりも無機色素を使います。一方でDVD-RやCD-Rはそれらと違って記録膜の素材に有機色素ってのを使います。ここがとても大きいんです。有機と無機が何が違うのかとかはこの際どうでもいいです。大事なことはブランクディスクにおいてCD-Rからの先駆者である太陽誘電は、あくまでこの有機色素に依存した会社であったということです。ですから太陽誘電、That'sブランドにおいてCD-RWDVD-RWDVD-RAMはDVD時代以前から全く展開してきてないんです。DVD-RAMは過去に販売したことがありますが、あれは誘電の生産ではありません。改めて言いますが、有機色素ありきであった太陽誘電がと無機色素ありきの時代を迎えることになっていたということです。他社は既に無機色素での生産や販売を依然からやっていた訳で、スタート位置がまるで違っていたことにもなります。とは言え、誘電はBlu-rayという新しい時代をどうやっていくかを考えていたはずですし、自社の「取り柄」があくまで有機色素にあることを自覚していたんだと思います。そして誘電はBlu-rayにおいて、本来、記録膜が無機色素であるはずのBD-Rを、有機色素でも出来るようにするという荒業を開発してしまいます。それがBD-R LTHという規格です。

BD-R LTH、有機BD-Rとも呼ばれたりしますが、これは古いドライブでなければ扱えるというもので、まぁそこそこに本来のBDと互換性を維持したものでした。そして有機色素を使うことで、以前からあったCD-R/DVD-Rの技術を流用出来る為、メーカーの参入障壁が和らぎ、また安価な生産が可能とか言われました。この聞こえだけは良かったんですが、これが本当にダメな規格でした。まぁBDを次世代ディスク競争から知っている人間なら何となく以上に発売前から看破済だったんですが。いやいや本当に酷いもので、まぁ三つの点が挙げられると思います。一つ目は、確かに登場した時の価格は安かったです。平均して大手メーカーの1割は安かったと思います、しかし所詮1割です。特売等によっては無機BD-Rの方が安かったりしました。二つ目は、無機BD-Rの書き込み速度が4倍速が普通になっていた時に有機BD-Rは2倍速止まりでした。倍の差は大きいです。タイム伊豆マネーです。三つ目は、有機色素が保存性に難がある性質を持っているということです。保存性を重視するからこそディスクのバックアップという選択肢を取っている訳で、これは非常に大きな欠点でした。経年劣化を避けたい心理があるにも関わらず、ましてや有志や重鎮サイトなどでの焼き品質の計測値が中華な無名メーカー以上に真っ赤っ赤だった時には、有機BD-Rの運命がそこで決定づけられたと言って過言は無いはずです。これらの結果、記録型のブルーレイ市場において太陽誘電の居場所は無くなってしまいました。というか今では有機BD-Rはほぼ見なくなりました。おかげさまでBD-Rにおいて我々の合言葉は「パナ一択」です。そりゃ誘電の人が「想像を超える市場縮小」なんて言わざるを得なくなるのも無理ないです。もし当初からBlu-rayを見越して無機参入していれば…というタラレバは野暮でしょうが、「想像を超える」ことは避けれたんじゃないかなと思うところです。ちなみに現在、太陽誘電はThat'sブランドで無機BD-Rを販売していますが、当然ながら誘電の生産ではありませんので。そして人気もないです。

ブルーレイで勝負出来ない以上、太陽誘電のブランクディスク事業の未来は厳しいです。それでもCD-RとDVD-Rにおいては「誘電一択」であったことを考えれば、そこでまだまだ勝負できたのではないか?と思うのだけど、やはり前世代ディスクの需要が相当崩れてきているのかもしれない。映像用途ではDVD→BDが避けられないにせよ、音楽用途なら移行がないはずのCD-Rも、まぁ今時はCD再生減りましたし、例えば音楽CDレンタルの市場もセル市場に比べたらマシというものの減少傾向にはあるということなので。想像を超え厳しいのかもしれないですね。個人的には社用車のカーステレオがAUXの無いタイプでして、車で音楽聴く為にCD-Rはまだまだ使ってたりするクチなのでちょっと対応に迫られそう。