Spotifyの件

 
いつ上陸するのいやしないという話でなく、どんなサービスでどうこうという話でもなく。ただ「Spotify上陸かも?」というニュースに対する、日本の巷の各所での反応や、いわゆる音楽ライターやらコンサルやらの有識者?が形成している空気もしくは発信している記事が気に食わないという話。何が気に食わないって、ほぼポジティブ一色だから。まるで救世主様みたいになってたりもする。ナンデ? まぁ、ほぼ一色と聞けば逆張りしたくなるのが人間のサガではあるのだけれども、残念なことに今回は一色になる前から逆側に十分ベット出来る案件なんで、だからこそ余計に気に食わない。そんでもってSpotifyの様な新しい形をクロフネヨイショしながら日本にはダメ出しする、というのがお決まりパターンになってるのも気に食わない。
ともかく、Spotifyなどの定額制ストリーミングがどうこうという最近の話題は、ポジネガが半々くらいでないとおかしいし、そんな賛否両論からあれこれ議論されて、解が模索されていくブラッシュアップ万歳のはずなのになぁ、どうしてこうなった、という話。いやまぁリスナーは消費者という立場だし、より安くより便利がモットーでもあるし、ネットなんかは「日本遅れてる!」「ウェルカムクロフネ!」が大好きだし、半々ってのはむしろ偏ってるかもしれないね。つってもせいぜいナナサンでポジるくらいが良い塩梅だが、先に触れたようにキューイチさえ上回ってる実質テンゼロだから気に食わないという話。だから何の議論も切磋琢磨も発生してない。

あー、僕がアンチ定額制とかそういうんじゃないですよ。確かにミュージックアンなんとかの定額系は使ってないんですけど。しかし自分が音楽にこんだけ興味持てるように育ててくれたのは実家が契約してた有線放送のおかげだったりします。今じゃアナクロな有線放送ですが、ネットが一般的に無かったあの時代のPandoraやSpotifyは、USEN440だったんじゃないかと思う今日この頃です。だからああいうオールインワンなのがいいものだというのは理解してるつもり。
で、バラ色の明るい未来へのパスポートな救世主扱いされてるSpotifyを始めとした定額制の音楽配信なんですが、実際はそうじゃないかもよという話。これ上手く行ってるのか?という話。長い前置きやって言いたいのはそういうこと。


以前、2013年の音楽市場に関するニュース記事がありました。大きな市場を持つ欧米先進国の傾向はだいたいどの国も似てるんだけど、とりあえず最大の市場であり配信でも先進している米国市場のポイントは3つ。『CD売上は相変わらず落ち続けている』『iTunesなどのDL売上が初めて減少に転じ微減』であり、そして『それらの減少分をストリーミング市場の成長分が相殺』になります。一つ踏まえたいのはそもそも欧米は00年代から売上をずーっと落とし続けていた訳です。その落ちっぷりには日本の音楽市場がマシに見えてしまう程です。
そう言えば10年近く前、今回のストリーミングと似たような救世主扱いで各方面からヨイショされてたiTunes音楽配信だったんですけどアレ何だったんでしょうね。学生さんや20代の若い人達は当時を知らないんだろうけど、今回のフィーバー?と似たようなことがあったんですよ。結局、その後の音楽レコード市場は縮小傾向が止まらず、加速すらしてた時期もありました。つまり『失敗』でしかないんです。一般社会において仕事で成績落ちてれば下手すりゃクビです。悔しさで言い訳や愚痴をしたくなりますけど、それでも自分に一切の非が無いとはフツー思いません。何かしら思うところはあって落胆なり反省をします。ならば、音楽市場の話題としても総括や反省とかがあるべきなんですが見たことが無いです。無くていいんでしょうか。そして今回のストリーミング市場が先進国の音楽市場にもたらすものが、相殺という横ばいに止まっているのは、かなり先行きしんどいというか、やや論外なんですけど、この辺もどうなっているんでしょう。『10年前と同じなんじゃ…』ムードがそれなりにあるべきなんだけど、見たことないです。もう少し慎重な展望があってもいいんじゃないかと僕は思う訳ですよ。ポジティブ全開に担いで、『日本は遅れてる!』なんて危なっかしいなぁと思う訳です。
そして現在進行形である2014年、第1四半期を終えた時点での米国市場がどんな感じかというと、ニールセンによって現在明らかにされているCD+DL売上は昨年の落ち込みよりも更に落ち込んでしまっているんですね。明らかにここ1〜2年と流れが変わってるんです。特にDL売上の減少がここに来て顕著となり、やはりストリーミング市場が既存の市場をカニバっている(共食いしている)と捉えるべき現状になってます。ちなみに1Q時点だとアルバム売上が12→13年で420万枚減ったのが13→14年では1000万枚の減少。シングル売上だと12→13年で640万枚減ったのが13→14年では3770万枚も減少。現在米国ではFrozenのサントラや、Pharrellのシングル等のヒット作が既にあるんですが、それでもこの厳しい数字になっています。仮に残りの3Qを現状のペースのまま推移したとすると、14年のストリーミング市場が13年以上に強く成長しない限り、CD+DL売上の減少分の相殺すら出来ずに前年比減という結果になります。ちなみにストリーミング市場の成長は2012年が3.8億ドル、2013年が4億ドルの増加。そして2014年、CD+DLの減少分を相殺する為だけに必要なストリーミング市場の成長分はどんぶり勘定でおおよそ7億ドルと想定される。さてどうなるか。こーなるんじゃないか、いやいや、あーなるんじゃないか、そんなポジティブであったりネガティブでもあったりする見立てがメディアなんかで見られるはずなんですけど見たことないぜ。
まーね、ストリーミング市場の数字はまだ出てきていないので素晴らしい数字がそこにあるかもしれない。ここの市場はまだ頭打ちする段階に至っていないので成長の期待は十分に出来ますからね。ところが、このハードルをクリアしても厄介な問題があります。それはストリーミングビジネスの経営で、大手であるPandoraやSpotifyを始めとして、どのサービスも赤字体質にあること。ストリーミングビジネスは対価(ロイヤリティ)が少ないとアーティスト側から定期的に批判されたりしてますけど、ストリーミングビジネスにとって最大のコスト要因はそのロイヤリティです。そのロイヤリティが少ない現状でも赤字なんですよ。つまりそれは…。それはっさておき、影響力やブランド力などはあるので、各方面から期待されて資金調達が出来ているので近い将来に大手サービスが潰れたりすることは無いです。しかし歪な構造になっているのは確かで、それこそ握手券ビジネスの様な不健全さがあることを指摘するような記事やコラムはまるで見たことがない。
何故、物書きで飯食ってる人達はこのブルーオーシャンに突っ込もうとしないんだ?(やや反語)


以上は音楽レコード市場の話なんで、次は「じゃあライブで稼げ」って話が定石になったりする。実際、コンサート市場の売上は好調で、縮小するレコード市場の穴を埋められるほど伸びている。だがこの売上増は、コンサートチケットの平均価格がこの10数年の間に倍以上に高騰したことが主要因となっています。まんべんなく一律の値上げで平均価格が上がったというのではなく、いわゆるSS席やVIP席などのプレミアムなチケット価格をべらぼうに高くして平均価格を引き上げている。そしてこれがバカに良く売れます。金持ってる人は持ってるし、払う人は払うので、取れるところから取るという訳ですね。どっかの握手商法みたいで、これはもうビジネスの基本なんでしょうなぁ。このプレミア席が売れさえすれば、あとの普通席はガラガラでも満杯でも儲けに大差はないと言われるほどです。そしてこういう値上げ、価格戦略を可能にしているのはビッグネームだけなんだよね。つまり中堅以下はしんどいということで、これもまた不健全に思えるんだけど、この辺から何か学ばんとする話題や記事は見たことないや。おれはうえている。


本当に日本って遅れてるのかな? うん、俺は遅れてると思う。でも先行事例からちゃんと学ばず行動しちゃうのは「もっと遅れてる」と思う。