北米でブルーレイは今

前回の続き。

  • 北米市場の現状

まずはハードウェアから。BDAなどのアナウンスによると、2006年夏にBlu-rayが発売されてから2009年末まで累計約1700万台を販売。半分以上はPS3によるものだとされている。PS3が再生環境の主流であることは日本と特に変わらない。ただし欧米では、PS3以外だと録画再生機が再生環境や販売の主流の日本とは違って、再生のみを行うプレーヤー(スタンドアロンプレーヤーとも呼ばれる)が一般的。*1 この累計約1700万台のうち、約450万台は2009年の第四半期(Oct〜Dec)、約800万台は2009年に販売されたもので、市場の伸びを示しているかと思います。2010年に入った現在も前年比増*2の好成長を続けています。DVD市場は減少に転じているものの、今もなお年間2000万台以上の市場規模を持ち続けており、まだまだDVDが主流です。日本では既にBlu-rayがDVDを抜いてる様なハードウェア市場ですが、北米ではあと数年はかかることになりそう。

そしてセル市場。あちらは日本よりもセルソフトを買うという習慣が広く強く根付いており、とんでもない巨大市場に育っています。ヘビーユーザーが支えがちな日本市場とは違って、北米のそれはライトユーザーな市場となっているということですね。それだけにセル市場の動向が米国におけるBlu-ray普及を指し示すものになるかと。で、現状の具合はどんなものかと言うと、セル市場の10〜18%を推移するといったところで、日本よりは割合が若干高い傾向。先週はAvatar効果ということで数量シェアが約22%になってました。そのAvatarは初週が49%、今週は42%という高い水準を保っています。ジャンル等によって差はあるものの、割合が30%超える作品は多く見られ、40%を超える作品が出てくるのも普通のことです。あと、日本にも共通する事だけど、初動傾向が強いので数週経つと割合は下がる。この辺は再生環境の母数の大きさが効いているのだと思われる。

  • 「ブルーレイはアニヲタ規格」

ネットではこんな意見をチラホラ見ることがあります。「だからどうした」という意見なんですが、確かにJVAの発表でも日本のブルーレイ市場でのアニメジャンルの強さは明らかで、アニメがブルーレイソフト市場の主流となっています。最近のアニメの大ヒット作品、化物語機動戦士ガンダムUCけいおん!、これらはブルーレイ版の方が売れています。しかしそれは規格自体がヲタに染まっているのではなく、「プレイステーション3の発売によって、アニメの関心も高いゲームユーザーからブルーレイ規格を導入する流れになっていたことの表れ。」これだけは言っておきたいですかね。それによってアニメに参入しやすい土壌が出来ているだけで。一方で邦画などは出遅れていた訳で。一つ一つの経緯というものを追って考えればねぇ…。そもそもDVD市場自体、ブルーレイのある今ですらアニメジャンルの売上が幅を利かせている訳ですから、いっそ「DVDはとんでもないアニヲタ規格」と言うのが適当かと思う。
さて、そんなPS3的傾向は北米市場でも見られました。向こうでは大きなお友達的アニメが日本の様に幅を利かせてはいませんが、そこに近いアメコミやゲーム原作の映画作品はあるんです。そして実際にそういった作品のBlu-rayの割合はとても高かった。次世代規格での最初のヒットからして先日放送され大好評だった300ですから。その次はiron man、そしてDark knight。前者が初ミリオン、後者は初週ミリオンの記録を作りました。なかなか10%の壁を超えられない頃の市場で12.6%という高い数字を残したのはゲーム原作のHitmanでした。最近ではPS3以外のBlu-ray再生機の売れ行きの伸びによる裾野の広がりもあり、以前の極端な傾向は見られなくなりつつある。とは言え、基本的にはアバターに代表されるような、SFやアクションのBlu-ray志向は今も強くて、30〜50%の数字を安定して叩き出してます。最近の作品で言うと、2012、District9、StarTrek、Terminator Salvation等がそれらにあたります。その一方でコメディや子供向けなどの作品は総じて低く、シェアが10%を切ることも珍しくはない。*3 これらのジャンルでシェアが高くなるのは、Zombielandの様なサブカルや、 セス・ローゲングレッグ・モットーラ作品でしょうか。アニメだと、ピクサー作品が毎回健闘しているのが興味深いんですよね。ピクサー作品というのはライト層にもドカっと売れるビッグタイトルなので、人海戦術的にBlu-rayの割合が低くなりそうなんだけども。やはりクオリティの高さがそうさせるんでしょうか。あ、ちなみに向こうでポニョは30%超えと大健闘。*4 
他のジャンルを見てみると、ゲーマーやオタクが多そうなホラーは、思いのほかBlu-rayの割合が低く、アクション作品の様に30%を超えるような例は大変稀。むしろサスペンスやドラマの方が高かったりする不思議。何ででしょうね?よく分からない。テレビ・ケーブル番組*5のジャンルは日本ほどではないけれど、米国でも映画に比べて次世代規格への参入は消極的。それでもリリースされる作品は20%近い数字を出したりするので、日本とは全然違いますね。黒人向けの作品は総じて低い印象。先月リリースのPreciousは賞レース有力だった作品ということもあり、そこそこ売れるんじゃないかな?と思ってたんだけど初動は8%、1割にも届かなかった。This it itも日本よりBlu-rayの割合が低く、黒人と白人の所得差が影響してるのかもしれない。音楽ジャンルもまだまだと言ったところ。ドキュメンタリーは健闘しているジャンルで、環境系のPlanet Earthは初期の次世代市場での人気タイトルでしたし、今年リリースされたWWIIのHD版は初週に59%という高い数値を出していました。

北米でのレンタル市場がどういう具合になってるかは分からず。全体の規模は分からないけれども、市場成長はあるようで、今年の1Qでは36%増だったそうです。それでもDVDが圧倒的なのは間違いないでしょう。AV*6な海外フォーラムを見ている限りだと、近所のブロックバスターやムービーギャラリーで〜という人が居れば、自分の町は貧弱だからNetflixを利用している〜なんて人も居たり等、こういう傾向は日本と変わらないかな。

  • 今後の展望

北米という地域、10〜12月のホリデーシーズンがとにかく家電の売れる時期。これまでのBlu-ray市場の推移を見てもグッと伸びていたのがこの時期。作品内シェアで言うと、2007年には0〜10%だったものが2008年には3〜20%、2009年には8〜40%になっていました。今年は12〜60%くらいになるんじゃないでしょうか? 5〜7月というハリウッドにとってのオンシーズンに公開された超大作映画がパッケージ化される時期でもあるんで、相乗効果も見込める訳です。前回書いたように、今年は大作を中心にDVDよりも売れる事例が北米市場でも当然出てくるんですが、望ましいのはこのホリデーシーズンより前に出て欲しいですね。売り込みの為の材料としたいところ。期待されるのはClash of the Titans、The Book of Eli、そしてAlice in Wonderland。調査会社は2年後の2012年にセル市場全体でもBD>DVDになるとアナウンスしているんですが、さぁどうなるやら。次世代規格の分裂と不況さえ無ければ、上手く行ってたんでしょうけど。北米ではHD DVDが積極的な展開をしていた分、分裂の影響は日本以上でしたし、不況に関しては震源地。2009年にテレビのデジタル移行をした米国ですが、ここの特需*7の波に乗り切れなかった面は否めないですからねぇ。今年はワールドカップがあるのでHD機器の販促を促せるんですけど、北米は如何せんサッカー人気が無いですからねぇ…。2012年のロンドン五輪にしても。*8 ユーロ不安というリスクがある欧州の方がグンと伸びるかもしれないという。やはり3Dが鍵なのか?

  • まだまだ続くよ

次はブルーレイ+DVDという販売方法について書くつもり。その次で余談をまとめて最後にしようかな。

*1:この違いは、録画文化の差によるものと言われているがここでは割愛

*2:1Qでは125%増

*3:数%がザラだった頃を思えばこの1年で随分変わってはいますが

*4:DVDも十分に売れてる中でこの数字は凄いよ

*5:いわゆる海外ドラマ

*6:オーディ…以下略

*7:ただ、米国はCATV主体なので日本ほどのものではない

*8:NFL開幕の方が売り文句になりそう