ブルーレイ市場の今

いずれ、どこかしらのタイミングで書こうと思ってたネタなんだけども、きっかけがちょっと見つからずにズルズルと。長文になるだろーなーって言うのもあったので。今回、アバターがリリースされてニュースにもなった事や、年度末のデータも出てきた季節という事もあって、この辺のタイミングで書くのが丁度いいのかなと。
さて、2006年に次世代ディスク市場がスタートし、2008年にはHD DVDが撤退、ブルーレイ市場が次世代ディスクの席に収まることになったのも随分昔の事になりつつつあります。今はもう2010年で来年には5歳。「次世代DVD戦争」なんて言われてた頃&東芝HD DVD撤退直後では、次世代云々〜なニュース記事やネットでの話題を見られる機会がちょくちょくあったのですが、昨今においてはそういう事もパッタリ目にしなくなった。今は、アバターに代表される「3D」がAV*1における旬のキーワードになってますねぇ〜。流行語大賞にもノミネートされるんじゃないでしょうか。まさに猫も杓子も〜と言った感じで。映画の興行ランキングを見ていると、3D版が公開されているアリス・イン・ワンダーランドが絶好調、また第九地区もしぶとい興行を続けています。遡れば、シャッターアイランドシャーロック・ホームズもまずまずの興行成績でした。何よりパーシー・ジャクソンがそこそこヒットしたのには自分的には超ビックリで、バカパクなCM*2打ったのが功を奏したのかもしれないけれど、このアバターってのは日本における洋画復権に一役買ったんじゃないか?という個人的見解を持ってます。話が脱線してましたね、すいません。ええ、そうなんです、ここ最近はブルーレイ市場に対してのネタが特に無いんですよ。Blu-rayタグ使ってる自分なので、一応アンテナは立ててるのですけど、レコーダーの新製品だの、ナウシカが出るだの、マイコー馬鹿売れだの、ヱヴァ破がそれ以上に売れそうだの、そういうのばっかりでして、以前よく見かけた「市場の現状や今後」みたいなものがないんです。「ブルーレイってどうなの?今どうなってるの?」みたいなのって今でも大事だと思うんですけど。なので個人的なメモがてら、現状と今後ってのをザックリとまとめてみようかなと。毎回そうですが基本的に競馬予想のノリです、あしからず。(ちなみに数字はJEITA・JVA・BCN・GfK・オリコン・Nielsen等のデータを参考にしてます。)

  • ハードウェア(レコーダー/プレーヤー/PC)市場

次世代規格の分裂による消費マインドへの悪影響からか、スタートでESP*3ったブルーレイ市場ではあるけれども、現在では大手家電量販店に行けば一目瞭然、ブルーレイが主流になっているのが分かると思います。特にレコーダー(録再機)は顕著で、ブルーレイ搭載機はレコーダー市場の7割以上を占めるようになってきました。テレビ分野でもブルーレイ内蔵アクオスが好評で定番化という、まさかの次世代テレビデオ。記録メディアも録画機に牽引される形で、店頭の棚・スペースでBD-R/BD-REらがDVDの規模と肩を並べるようになっています。一方でプレーヤー(再生専用機)は、低価格だったりコンパクト(&ポータブル)だったりするDVDタイプに一日の長があり、主流にはまだ遠いのが現状。ただし次世代ディスク戦争での東芝のワンダー的プロパガンダが思い出される様に、プレーヤー市場に関してはプレイステーション3による影響が十分に考えられた事に留意しておく必要はあります。そんな中でも、廉価プレーヤーが出るにつれて市場規模は着実に伸びています。JEITAの3月での出荷データではDVDプレーヤー市場の約1/5まで成長し、この伸びが続けばDVDを追い抜くのはそう遠くないかもしれません。*4 AV家電でない市場を見ると、ブルーレイ搭載のゲーム機のプレイステーション3が、アレコレと言われ続けられながらも廉価・コンパクト化を経て現在500万台以上を日本で売り上げました。ソフトランキングやラインナップを見た感じでは、一般人というノンゲーマーを多く獲得している任天堂に数字の上で歯が立たないものの、ゲーム界隈という括り*5で見れば、据置機の主流になりつつあるのかなぁという感じです。
その一方でパソコン市場ではかなり苦戦しています。BDドライブの価格はそれなりに下がってきているのですけども、ともかくDVDの頃とは段違いでPCにおける新規格導入が遅れている。その理由としては、フルハイビジョンを再生する為のマシンスペックの敷居の高さが一つ目。市場をデルやエイサーなど低価格志向なメーカーが占めた事でコスト高なブルーレイをスルーしてしまうのが二つ目。現在の主流であるノートPCやモバイル向けPCが持つ物理的問題(ディスプレイの大きさやマシンスペック、薄型ドライブ)が三つ目。バックアップメディアとしての選択肢が広がったことで(特に)PCで運用するメリットで薄れていること。これら4つが主要因になってるんじゃないかなと思います。土壌の悪さに由来している為、こればっかりは手の打ち様がないなぁーという印象。まぁBDドライブの値下がりや、オンボードVGAでもフルハイビジョン動画の再生が出来るようになってきた事、BD-Rが堅実に値下がっている等等、外堀りはそれなりに…なのかな? 一応、PC市場でのブルーレイ搭載機のシェアは去年から伸び始めるようになって20%以上に。ダイナブックもブルーレイ搭載する様になってますからね。おそらくこの成長は今後とも続くでしょうが、家電に比べて鈍足になるのは否めない。
2009年度末時点での日本におけるブルーレイユーザーの規模を探るとなると厄介なもの。レコーダー&プレーヤーの累計出荷が現在約550万台。数字が分かるだけマシなんでしょうけど出荷数ですから実売数ではありません。それに買い替えや買い増しによる重複分も時期的に考えられます。さらにプレイステーション3の500万台は実売数だけど、こちらも買い替え層を考慮しなければならない上に「PS3もBDレコーダーも持ってるよ」というパターンも起きてくる。BD内蔵アクオスに関しても、液晶テレビ市場の約5%を獲っているというソースしか出ず。PCも以下同b…。じゃあザックリ勘定して、レコ320万台PS3が400万台その他30万台の計750万台を7掛けちょいで帳尻った550万世帯ってとこかぁ? ザックリすぎてアテになりませんね。そこで手っ取り早いのは政府が出してる世帯普及率のデータで、こちらでは3月末で約13.5%! 日本の総世帯が約5000万なので、約675万世帯がブルーレイ見れるらしいです。へー。自分の感覚としては意外に多い数字。市場の好調は現在も継続中なので、来年3月末には1000万世帯を超えてるんでしょうかね。2011年には地デジ移行、その翌年はロンドン五輪、これらの特需要因が続くこともあり、順調に数字を伸ばしていくのだろうと思います。

  • ソフトウェア(セル)市場

現在のセル市場におけるブルーレイの規模は数量ベースで全体の10〜15%。世帯普及率と比例してるんでしょうか? JVAによれば、3月が数量で約14.3%、金額ベースでは更に増えて約21%。これらはあくまでセル市場全体からの数字なので、同一作品内でのブルーレイのシェアとなると数字は大きく変化する。*6 例えばアバターで見ると、発売元のFOXが50%以上、オリコンは46%と発表しています。他だと年始に大ヒットしたマイケルジャクソンのThis is itは約25%でした。これら洋画に関しては15〜20%の辺りが去年からのブルーレイシェアの定例になっていて、大作であれば30%を超えたりもする、という感じ。逆に邦画は洋画に比べるとブルーレイ版が売れていない現状。何故か? まず邦画業界自体が次世代ディスク市場への参入に遅れていたこと。*7 ジャニーズの様なアイドル俳優の出演作が多いことから女性*8の購買層が強くなっていること。それに影響されているのか、洋画とは真逆に特典映像やグッズなどの付加価値をDVD版の方に充実させる傾向があること。これらが理由として挙げられるのだと思います。似たジャンルとして、テレビ系(ドラマやバラエティなど)のシェアも洋画に比べてかなり低い。テレビ業界は邦画業界以上に市場参入が遅れている。放送の性質上、先にハイビジョン放送を実質無料で提供する為、ハードルの高さがあるのだとは思う。しかしテレビアニメがそういう中で市場を築いている以上、理由にはならない。昨今のテレビ業界を取り巻く言葉に「放送外収入」なんてのが今頃出てきた事から考えると、ブルーレイどうこう以前の問題なのかもしれない…。
イマイチな邦画市場で健闘していた作品の一つが20世紀少年。原作が人気マンガであることから、マンガにも関心の高いゲームユーザー(=PS3)からの影響を受けていたと考えられるかと。三部作だった本作は、第一章から最終章に進むにつれて少しずつシェアを伸ばしていた。興味深かったのは最終章に合わせて発売されたトリロジーBOXの売れ行きで、単品盤に比べてその販売数は少なかったものの、こちらはDVDBOXよりもBDBOXの方が売れていたのだから驚き。シリーズ途中でブルーレイを導入した人が少なくなかったということでしょうかね。
「おいおい、俺らのアニメの売れ行きはとっくの昔から大勝利だろ?」 ブルーレイ版の売上がDVD版を上回る、アニメジャンルではもう見慣れた光景です。だからこそこの市場はスルー。今更語ることは特にないと思う。峠を越えたのだから。
結局のところ、アバターマイルストーンとなる過半数を超えられなかった。間近には迫れた訳なので一応の成果だったと言えるとは思いますし、マイルストーンが時間の問題ということも変わらないでしょう。今年に公開される、アイアンマン2プリンスオブペルシャプレデターズ、これらの大作がパッケージ化されれば、過半数を超えるタイトルに間違いなくなるはず。それらより先にリリースされる予定になる、タイタンの戦い、第九地区なども高い可能性を持った作品。そしてパッケージでの大ヒットも確実視されているアリス・イン・ワンダーランドはどうなるか? ディズニーのファンタジー物ということもあって、客層的にちょっと確信が持てない…。*9 しかしながら「ワンダー」な作品だけに、この作品がエポックなマイルストーンとなるのが相応しいのかもしれないですね…。そんなこんなで、セル市場において2010年が一つの転換期になるのは確実。とりわけ、スタジオや小売にとっては「売り方」というものに大きな影響を与えるでしょう。

  • レンタル市場

セル市場が順風な一方でレンタル市場の規模はガクンと落ちる。それは凄いガクンっぷりで目も当てられない。レンタル業者向けのソフト販売では毎回1%を切っている。実際のレンタル店での回転状況でも1%を切ってます。まぁ後者のデータは約1年前の調査によるデータなので、考慮の余地自体はあります。*10 そもそもレンタル市場というのは、マジョリティどころかラガードみたいな市場ですから、この状況は仕方がないかも。セルと違ってレンタルは手軽な分、より消費的で、画質に対してのプライオリティは低くなりがちでしょうし。こればかりはブルーレイ機器の世帯普及率にクリティカルマス*11を早くに超えてもらって、そこから吹き出す風を待つしかないんでしょう。実際にTSUTAYAやGEOなどに行ってみると、ブルーレイのコーナーはハリウッド大作がある程度で棚も一つか多くて二つ分。それでいてレンタル料金は割高だったりするので、浸透が遅れてるのも無理ないよなーと思いますね。自分が住んでる政令指定都市の品揃えがこのザマだと、地方・田舎はもっと散々なことになってるんでしょう。さらに、今はDVD当時と違ってネットの存在がある。動画配信じゃなくってTSUTAYAディスカスDMM.comの様な宅配レンタルが。例えば自分が入会しているDISCASでは、「在庫数」「予約者数」という需要を測れる存在があります。それらからブルーレイの現状ってのを見ると、ブルーレイ版のDVD版に対する在庫数の割合は実店舗のそれより高く、予約数から見れば回転の割合も高そうですね。*12 1年前は閑古鳥だったブルーレイ版のレビュー欄も、今ではレビューが集まるようになっていて、利用者の増加をヒシヒシと感じます。これらはブルーレイ機器の普及に伴ったものだけでなく、ブルーレイユーザーが宅配レンタルを積極的に利用する動きがあるのかもしれない。既述した通り、地方・田舎にとってのメリットは強そうだし、宅配だとレンタル料金がブルーレイとDVDとで変わらないのも大きいはずで。まぁ、それが反って実店舗でのブルーレイの充実を邪魔している気もするんですが(苦笑)


  • インターミッション?

ザッとこんな感じ。現状のブルーレイ市場、導入の入り口となる家電量販店ではもう主流に。そこから波及してソフトウェア市場も新作を中心として普及期に入っている。ここが今の最前線。次世代規格の分裂による混乱や、世界不況がありながらもよく成長したものだと思う。これからブルーレイは「世帯普及率がクリティカルマスを超える」「ソフトをリリースするとブルーレイの方が売れる」といったチェックポイントを通過することになる。推移から考えると、それはこの1年の間に起こる事になりそうだ。これらを通過することで腰の重い業界の尻には火がつくだろう。それはブルーレイにとって更なる追い風となり、マジョリティからラガードへ、最前線はセルソフト市場からレンタル市場へ移っていく。それは遠くない将来だが、チェックポイント通過後の再加速がどの程度になるかで数年の誤差は出てくるだろう。日本では2015年頃になるだろうか? DVDと同じような歩み具合になりそうではある。

長くなってるので、続きは次で。今回触れなかった北米市場やDVD付きの販売方法など、その他いろいろな話題について書くつもり。

*1:オーディオビジュアルだからね!

*2:石にな〜れ

*3:出遅れ

*4:何となくですけど2012年の夏〜秋頃でしょうか?

*5:アニメで言うならジブリとディズニー抜いた界隈

*6:だいたい高くなる

*7:HD DVD撤退でようやく腰を上げ始めた具合なので…

*8:女性は男性に比べてデジタル家電PS3への興味が低い

*9:一応、「魔法にかけられて」「ナルニア」はBD率が高い傾向だったんだけども

*10:考慮つってもノミがアリになる程度でしょうけど

*11:家電分野のそれは20%らしい

*12:アバター」が22%、「イングロリアスバスターズ」が17%でした